1. 設置趣旨
近年、AI技術に代表されるITの発展によりデジタル技術や大量のデータを活用する社会の到来が予測され、それを支えるための大量の電気を発電する方法の確立が全世界共通の課題となっている。急激な気候変動を防ぐための脱炭素社会の実現を目指すうえで、化石燃料による発電に依存し続けることは困難である。また、太陽光や風力等による発電は、施設自体が自然環境や景観に悪影響を及ぼすことが懸念される。このような状況において、有効と考えられる新たな発電方法のひとつに小型モジュール炉(SMR: Small Modular Reactor)がある。
SMRとは電気出力が300 MW以下の小型モジュール型原子炉のことで、安全性、建設コスト、設置場所の柔軟性の面で既存炉と比較し優位性がある。米国や欧州においては、SMRの導入に向けた技術開発や普及を支援する政策立案が積極的に進められている。ただし、実用化に向けた課題として、炉の建設・運用に要する技術が開発途上にあることに加え、小型炉特有の性質として一基あたりの発電コストが割高となる傾向がある。すなわち、技術仕様の確立と一定規模以上の量産体制が整わないと、経済的なメリットが得られないものと考えられる。このことは、仮に我が国にSMRを導入することを目指す場合、一定数以上の地域区分(例えば各都道府県)にSMRを設置する必要があることを意味する。福島第一原子力発電所(1F)事故により原子力に否定的な雰囲気が存在する状況において、複数の地域でSMRの建設に関する議論を進めるためには、技術的・経済的な便益とリスクに関する検討に加えて、社会科学的な視点を交えた検討もしていく必要があるだろう。上記のSMR導入に関する論点は、エネルギーとして原子力の活用を検討する際に原子力安全分野において従前議論され続けているテーマであるというだけではなく、1F事故を経験し安全・安心の実現に向けた放射線防護の理念の社会実装に対する要望が社会的に増している状況において保健物理分野の専門家が中心となり新たに挑戦するべきものと考えている。
そこで新しく設置を提案する本研究会では、放射線防護の観点からSMRについて議論する上での基礎情報の把握を目的として、SMR導入によるハード面でのリスクと便益に関する情報の収集と整理を行う。その上で、我が国においてSMR導入に関する議論を進める際に想定される放射線防護上の課題(安全の確保と評価、リスクコミュニケーション、合意形成など)を幅広い視点に立って抽出し、必要な対策について議論する。
2. 活動計画
SMRの日本国内における利用に係る便益とリスクについて、技術的、経済的および社会科学的な幅広い視点から議論を行う。
【1年目】
(1)SMRの技術的および経済的な優位性と課題の整理
我が国はエネルギー資源が乏しく、広大な国土も有していない。このような特性を有する我が国においてSMRを導入する優位性と課題を技術的および経済的な観点から検討し整理する。
(2)海外におけるSMRの導入に関する動向の調査
導入に関する議論が進んでいる欧米やアジアを主な対象として、行政や産業界における活動や支援の体制について情報収集をする。収集した情報に基づき、我が国においてSMRの導入を進めることを仮定した際に求められる支援体制について検討する。
【2年目】
(3)社会科学的な視点における課題の検討
SMRの導入について建設的な議論をしていくためには、社会科学的な知見や合意形成の現場経験を有する専門家の活躍が不可欠である。そこで、社会においてSMRの導入について建設的な議論ができる雰囲気を醸成するために、専門家ができることについて検討する。
(4)とりまとめ
2年間の議論に基づき、(1)~(3)の内容について報告書にとりまとめる。
3. 研究会員
主査:保田浩志(広島大学)
幹事:五十嵐悠(東京大学)
幹事:三輪一爾(名古屋大学)
委員:木藤和明(日立GEベルノバニュークリア・エナジー株式会社)
委員:麓弘道 (日本検査株式会社)
委員:平純一 (東京電力ホールディングス株式会社)
委員:義澤 宣明(三菱総合研究所)