1. 設置趣旨
ICRPは、2011年に、白内障と循環器疾患を組織反応(確定的影響)に分類して、しきい線量を線量率によらず眼の水晶体と循環器に0.5 Gyと勧告した。白内障については作業者の水晶体等価線量限度を大幅に引き下げたが、循環器疾患については医療従事者への警鐘に留めて線量限度は勧告していない。白内障については、日本保健物理学会は、2013〜2016年度に専門研究会を設置して水晶体の防護と線量限度について議論するとともに、2020年度にガイドラインを制定したが、学会内での水晶体への関心は高いままである。また、従来よりも低線量で白内障のリスク増加を示す報告に加えて、緑内障のリスク増加も報告され始めており、UNSCEARは眼への影響に関する専門委員会の設置を予定している。循環器疾患については、中線量でのリスク増加を示す報告が蓄積してきており、UNSCEAR専門委員会(CircuDis)やICRPタスクグループ119が科学的知見の整理を進めている。
眼と循環器に加え、他の組織に生じる非がん影響についても関心が高まっている。神経系については、成人被ばくによる認知症やパーキンソン病のリスク増加が報告され始めたところで、UNSCEARは専門委員会を2023年に設置して報告書を作成中である。リスク増加とは逆に、非がん疾患(例:致死性不整脈やアルツハイマー病)の放射線治療の臨床試験が進行中であるが、その有害事象は十分に議論されていない。生殖腺については、ICRPタスクグループ121が四半世紀ぶりに科学的知見の再整理を進めている。皮膚については、ICRPの等価線量限度は1985年から変更されていないが、近年、本邦の整形外科医における術中透視の手指への影響が注目されている。ICRP は次期主勧告で等価線量限度ではなく吸収線量限度を勧告予定であるが、放射線加重のアプローチや循環器疾患の標的組織など十分に議論されていない。非がん影響に関するIRPA関連諸国の状況把握を目的として、IRPAの組織反応タスクグループが2024年にアンケート調査を実施し、その結果の整理が進行中である。
本専門研究会では、眼、循環器、神経系、生殖腺、皮膚に生じる非がん影響について、科学的知見と国際動向を把握して、線量の評価や低減策など放射線防護における課題をまとめる。
2. 活動計画
全体会合を四半期毎、タスクごと(影響、医療、産業、防護)のサブグループ会合を適宜、原則リモートで開催する。検討内容は、以下の通り。
・疫学的知見の整理(眼、循環器、神経系、生殖腺、皮膚)
・国際動向(ICRP、UNSCEAR、MELODI、NCRP、IRPA等)の把握
・放射線防護への示唆(医療、産業、防護具、線量)
など
1年度目 2025年度
上記の検討内容のうち、国内外の疫学知見や国際動向等の現状整理を行う。現状整理は、IRPAのTGで行ったアンケート調査において提示された文献のほか、サブグループ内で検討し、抽出した文献を対象とする。また、現状を整理した結果から課題抽出を行う。現状整理及び課題抽出においては、必要に応じて関係者から意見を聴取する。また、検討内容及び意見聴取内容については、随時見直し、追加する。
2年度目 2026年度
引き続き現状調査の整理及び課題抽出を行うとともに、分野や課題ごとに放射線防護の観点から、示唆・提案内容をサブグループでとりまとめ、さらには全体会合において検討する。検討内容については、研究発表会等においてシンポジウム等を開催し、意見交換を実施する。これらの検討結果をまとめて、保健物理誌や国際誌に投稿して、活動報告書をまとめる。
3. 研究会員
委員(主査) 横山須美 長崎大学
委員(幹事) 浜田信行 電力中央研究所
委員 大久保秀輝 東京電力ホールディングス
委員 加藤昌弘 産業技術総合研究所
委員 黒澤忠弘 産業技術総合研究所
委員 福永久典 北海道大学
委員 藤淵俊王 九州大学
委員 松本真之介 東京都立大学
委員 松原孝祐 金沢大学
委員 吉井勇治 北海道科学大学
委員 吉永信治 広島大学
委員(企画委) 王丸愛子 純真学園大学
オブザーバ 向田直樹 東京電力ホールディングス
4. サブグループの構成
影響サブグループ:浜田信行(とりまとめ)、福永久典、吉永信治
医療サブグループ:藤淵俊王(とりまとめ)、松本真之介、松原孝祐、王丸愛子
産業サブグループ:横山須美(とりまとめ)、大久保秀輝
防護サブグループ:加藤昌弘(とりまとめ)、黒澤忠弘、吉井勇治
5. 議事録