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お知らせ

「人文・社会科学的視点から考察する自然起源放射性物質含有廃棄物の取扱い専門研究会」の設置について

日本保健物理学会

会員の皆様

 

 掲題の専門研究会を設置いたしますので、学会専門研究会運営細則(細則第C-1-1)に基づき周知いたします。

 専門研究会員としての参加希望については3月31日までに、幹事の麓弘道(日本検査)(h.fumoto @ nihonkensa.co.jp)にご連絡ください。

 

1.  専門研究会の名称

「人文・社会科学的視点から考察する自然起源放射性物質含有廃棄物の取扱い」

 

2.  提案者名及び連絡先

麓 弘道 (日本検査株式会社)

 

3.  提案理由

 本提案は、平成29年度から平成30年度に実施した、日本保健物理学会の自然放射性核種を含む廃棄物の放射線防護に関する専門研究会(以下、前専門研究会と称す)の成果を、人文・社会科学的、及び、倫理学的観点を考慮して見解をまとめるものである。

 

 前専門研究会においては、「鉱さいの取扱についての考え方」「自然放射性核種の考え方」及び数億年にわたる半減期の長さや天然賦存性に伴う被ばくの「確率論的リスク」について、広義の自然起源放射性物質(NORM)と利用したウランの放射線防護について議論を行った。その過程でシンポジウムの開催により外部の意見を聴取し、研究会としては、行為に対する計画被ばくの観点からNORMと一度利用したウランの扱いについて、考え方の整理と統合を試みたが半ばに終わった。報告書では、今後取り組むべき重要な課題として、人文・社会科学的側面への配慮が挙げられた。遠い将来増加するかもしれない潜在被ばくへの対応を未来世代に託すことは、現在世代が現時点で真摯な対応をすることにより世代間倫理に大きくは反しないと考えられるが、今後、さらに人文・社会科学、倫理学、心理学などの分野を交えて、特に、ウラン廃棄物についてより深化した議論をすることが必要である、と結んでいる。

 

報告書をとりまとめた後の外部の意見として、一度利用した後のウランは子孫核種も含め人工放射性物質とみなして取り扱うべきとの意見がある。一方で、ウラン鉱山山元での鉱さいの処理に目を向けないで、我が国に輸入されたウランからの放射線防護のみを議論するのは整合性に欠ける、という指摘もある。

 

 そこで、本専門研究会では、諸外国では放射線防護当局により認可されている一度利用したウランの処分が、なぜ我が国で実施できないのかを究明する。この問題の打開には、放射線の防護や安全管理に関わる知見だけでなく、人文・社会科学、心理学、倫理学などの幅広い分野にまたがる考察が不可欠と考えられ、それらを踏まえたアプローチを採ることにより、利用したウランを含む自然起源放射性物質を含む廃棄物の処分するための道筋が示せるものと考えている。そこで、本件に関わる優れた専門家を数多く擁する日本保健物理学会において、この問題を議論するための専門研究会を立ち上げ、集中的に考察することとしたい。

 

 

4.  計画の概要

本研究会では、天然起源由来の放射性物質の廃棄物の取扱いについて、人文・社会科学、心理学、倫理学の面から考察を行い、諸外国で実施されているウラン含有廃棄物の処分が、我が国でも実行可能となるための考察を行う。

 

(1)   鉱さいの取扱についての考え方

我が国で利用している精製されたウランは、核燃料として活用され、その汚染物は事業許可に基づく計画被ばくとして管理されている。一方、精製時に分離して残された残渣は鉱さいとして、NORMの範疇として区分され、現存被ばくとして、現地で管理されている。この管理状況を、管理する鉱さいの量が桁違いに大きい、諸外国の例を通して確認し、そこを流れる放射線母語の考え方、次世代への影響に対する考え方を確認し、我が国の放射線防護の考え方との違いを明確とする。

参考文献の例示として、NRCがウラン鉱さいの取扱についてまとめた最終報告書、“Final Generic Environmental Impact Statement on uranium milling, project M-25” NUREG-0706, Vol. 1, pp. 17, Sept., 1980等を参照する。

 

(2)   Primordial(原始から在るもの)の概念

人工核種に対する放射線防護を考察する場合に、NORMに対する放射線防護の考え方が、どのように位置づけられるのかについて検討する。この検討では、Primordial(原始から在るもの)、自然放射線の意味を再考して、除外の基本的な考え方を整理し、対象とする核種が自然の中で常に存在する放射性物質とすることをどのように考えるのかをテーマに議論を深める。

この議論の中から、一度分離したウラン、ならびにそこから生成する子孫核種を、他の人工放射性核種と同列に扱うことの妥当性の議論のために、「分離したウランから生成する子孫核種のPrimordial性」について検討する。

参考文献の例示として、Merril Eisenbud, 「ビキニ事件の追憶と今後の放射線安全問題(1), (2)」, Isotope News, 1985年2月号、3月号、あるいは、”Protection of the public in situations of prolonged radiation exposure”, ICRP 82, 1999等を参照する。

 

(3)   リスクと正当化の概念

確率論的リスクは社会でどのように定着しているのかを知るために、社会に浸透しつつある医療のリスクの取扱と放射線のリスクの理解の比較に焦点を当てて議論する。特に正当化の概念について、NORMの場合の放射線影響の見方、考え方または評価を検討する。

これは、個人の寿命を上回る長期にわたる将来世代への健康影響を考える時に、算出される数字の意味を、人文・社会科学的に捉えようとするものである。

参考文献の例示として、2人のシーベルト賞受賞者の記念講演、L. S. Tayler; Some Nonscietific Influences on Radiation Protection Standards and Practice, The 1980 Sievert Lecture, Health Phys., 39 (2), 851 (1980)、G. Silini; Ethical Issues in Radiation Protection – The 1992 Sievert Lecture, Health Phys., 63 (2), 139 (1992)、等を考える。

 

(4)   超長期にわたる評価

長半減期放射性核種を含む放射性廃棄物の処分には、1万年を超える時間スケールでの継続的な管理が必要とされる。こうした超長期にわたる被ばくの評価に付随する不確実性をどう取り扱うのか、という重要な質問にいくつかの考えが散見されるものの、我々は未だ納得しうる回答を持てていない。

半減期が極めて長く処分場の管理が失われてなお残される放射性物質がもたらす将来世代へのリスクの意味を問い、現世代が果たすべき役割と託すべき役割について、海外事例、Primordialの概念、リスクと正当化の概念といった上記論点の議論を踏まえ、未来の社会や地球環境を見通しながら不確実性の低減を図ることを通して解を求める。

 

(5)   公開セッションの開催

これらの検討により、NORMである鉱さいの取扱とウラン含有廃棄物の処分を統合した放射線防護の基本的概念を議論して、共通認識を確認する場を企画セッション等で確保し、活動報告をとりまとめる。

 

 

5.  予定される研究会員名

 

主査候補者:  保田浩志、広島大学・教授

幹事候補者:  麓弘道、日本検査(株)

 

 (社会科学の専門家)

委員候補者:       土田昭司、関西大学・教授

(倫理の専門家)

委員候補者調整中

 (自然放射線の専門家)

委員候補者:  下道國、藤田医科大学・教授

(自然起源放射性物質の専門家)

委員候補者:   古田定昭、(株)ペスコ

オブザーバー候補者: 米原英典、原子力安全研究協会

(ウラン廃棄物処分専門家)

委員候補者:  齋藤龍郎、日本原子力研究開発機構

委員候補者:  小林愼一、新金属協会(予定)

 

上記に加えて、歴史学/考古学の専門家、地球環境の専門家、医療・保険等リスク評価の専門家等に、委員あるいは講師として参加いただくことを計画している。

 

7.  設置予定期間                     令和2年4月~令和4年3月末

 

以上

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