更新 令和2年10月17日
1.設立の趣旨
学校教育現場で放射線教育に用いられているクルックス管からは 15cm の距離で Hp(0.07) が 10分間で 30mSv を超える高い強度のX線が放出されうる。 放射線業務従事者ではなくまた労働者ではない若年層の「生徒」に対して高い線量の被ばくの可能性が検討されていないことは、放射線安全管理上大きな問題である。 特に近年、眼の水晶体に対する被ばくが問題になっており、線源を見つめる必要があるクルックス管の特性上、詳細な検討が必要である。平成29年3月に公布された新しい中学学習指導要領に於いて新たにクルックス管を用いた実験が求められており、安全性の確認が急務である 。
クルックス管から放出されるX線はエネルギーが低く評価が困難であったが、これまでの研究から 20keV前後のエネルギーであることが明らかになっている。このエネルギーでは人体中での半価層は1cm程度であり、1cm線量当量は大幅な過大評価となる。また空間的にも不均一な照射場であるため、防護を行う上で必要な実効線量の評価を行うことがこれまで出来ていない。さらに、現在の我が国の法体系では放射線業務従事者ではない一般公衆に対する被ばくの管理が行われておらず、一般公衆である教師及び 生徒に対する線量限度などを自主的に設定する必要がある。
すでにこれまでに線量測定やエネルギースペクトル評価などの基礎的な研究は概ね完了しているため、得られたデータからの適切な防護量の評価と、国内外の規制、管理状況を調査し自主的な管理基準を定めることを目標として、専門研究会の提案を行うものである。
2.運営計画概要
20keV以下の低エネルギーのX線は一般的なサーベイメーターでは線量を評価する事が困難であるが、電離箱やガラスバッジ、nano Dot線量 計、TLDバッジ、CZT検出器などにより線量、エネルギースペクトル、空間分布の評価をこれまでに行ってきている。さらに、使用する装置や印加電圧などの運用条件によって、ガラス管外部へ漏洩するX線量が大きく変動するため、全国の教育現場での実態をガラスバッジを配布することで調査を行っている。今後暫定の運用ガイドラインに基づいた実態調査を実施する予定である。
これらのこれまでに行われた研究で測定された Hp(0.07)、エネルギースペクトル、空間分布などの情報を元に、本研究ではクルックス管からのX線に対する防護量としての実効線量評価を行う。これにより、防護を行う際の評価基準を得ると共に、一般公衆に対して出来るだけ実態に近い線量を伝える。実際の安全管理上は、Hp(0.0 7) 及び Hp(3) による皮膚と眼の水晶体に対する等価線量評価が重要であると考えられる。
実態調査結果から評価された防護量を踏まえた上で、教育現場における被ばく線量上限などの被ばく管理のあり方を、国内外の様々な規制 、勧告、管理状況などを参考として検討する。 最終的に、専門研究会終了後に放射線防護標準化委員会に於いて専門部会を立ち上げ、機材の運用方法、測定方法などもとりまとめて「教 育現場における放射線安全管理ガイドライン」として制定する事を目標とする。そのために保健物理学会の専門研究会として防護量評価、被ばく管理基準について研究、調査を行う。
3.研究会メンバー
委 員(主査) | 秋吉 優史 | 大阪府立大学 |
委 員(幹事) | 藤淵 俊王 | 九州大学 |
委 員 | 橋本 周 | 日本原子力研究開発機構 |
委 員 | 松田 尚樹 | 長崎大学 |
委 員 | 榎本 敦 | 東京大学 |
委 員 | 大谷 浩樹 | 帝京大学 |
委 員 | 古田 拓哉 | 日本原子力研究開発機構 |
委 員 | 伊藤 照生 | 東邦大学 |
オブザーバー | 加藤 昌弘 | 産業技術総合研究所 |
オブザーバー | 山口 一郎 | 国立保健医療科学院 |
オブザーバー | 下 道國 | 藤田医科大学 |
オブザーバー | 占部 逸正 | 福山大学 |
4.活動内容
・第4回会合 令和2年10月6日(火)17:00~18:30
会場:Zoomによるweb開催
・第3回会合 令和元年10月21日(月)17:00~19:00
会場:東大医学部セミナー室
・第2回会合 令和元年6月28日(金)16:30~18:30
会場:東大病院 管理研究棟2階第3会議室
・第1回会合 令和元年5月17日(金)10:00~12:00
会場:東京都千代田区内神田3-16-10 金剛ビル4F
5.設置予定期間
平成31年4月から令和3年3月末
以上